岡村 力也 様
デジタル推進統括部 デジタル推進部 部長
谷上 智也 様
デジタル推進統括部 デジタル推進部
日本から海外へ届ける、「商業施設」というプラットフォーム
イオングループの中核企業として大型ショッピングモールの開発・運営を行い、日本国内、中国、ASEANに約200以上の施設を展開しているイオンモール株式会社様。同社は地域共創をビジョンに掲げ、積極的に自治体や他業種企業などと連携し、DX推進を始めとする新たなビジネスモデルも積極的に推進しています。
数多くのDX推進の取り組みをする中で、同社は2023年6月より、株式会社Octa Roboticsが開発したロボット・建物設備間連携に特化したマルチベンダー型のインターフェースサービス「LCI」の導入を決め、イオンモール白山において、自律走行ロボットを活用した館内配送サービスの実証実験を開始しました。
本インタビューでは、LCIサービス導入・検証の目的や今後の展望などについて、デジタル推進統括部 デジタル推進部の岡村様、谷上様にお話を伺いました。
お客様にも専門店にも、快適な空間の提供を
Q.まずはイオンモール様でLCIサービスを導入するに至った経緯から教えてください。
谷上様
何よりも一番大きな課題だったのが、専門店側の人手不足でした。私たちがDX推進に取り組む背景もこの点に尽きます。
例えば、各施設と専門店との連携についてですが、イオンモールの各施設には、モールを管理・運営する事務所があります。これまではそこに社員が常駐して、専門店と必要資材情報のやりとりをしていました。ただ、意外と小さな資材だったり提出書類だったりのためだけにわざわざ店舗と事務所を往復させてしまうなど、専門店側の対応工数や人員コストがかなりかかっている状況でした。まずはその書類や資材のやりとりを、自律走行ロボットを導入することで、まかなうことができるのではないかと考えたのが、LCIサービスを導入したきっかけです。導入することで、専門店が本当に必要なところに、人時やコストをかけることができる環境を実現したいと考えていました。
Q.イオンモール様が考える、リソースを割くべき「本当に重要なところ」はどういった部分でしょうか。
岡村様
お客様と専門店の「双方に快適な空間づくり」ですね。
私たちが向き合う対象としては大きく2つ、実際に施設に来店してくださるお客様と、入店してくださる専門店がありますが、そのどちらに対しても、私たちは「快適な空間を提供したい」という思いを強く持っています。
来店するお客様に対して「またこのお店に来たい」と思っていただけるような空間づくりをすることは当たり前かもしれませんが、私たちは専門店に対しても、例えば今の社会情勢に合わせた業務効率化や利用サービスの標準化、SDGs施策などに至るまで、徹底的に「施設をともにつくりあげていく」という姿勢を大切にして、関わらせていただいています。
Q.その目的に対して、これまでに様々なDX推進の取り組みをされていますよね。LCIサービス導入以前にされていた、代表的な例を教えていただけますか。
谷上様
実際にモール事務所と各専門店との情報連携については、タブレットひとつでできるようにすることで、これまでかかっていた専門店側の対応工数を格段に減らすことができました。
事務所までの移動時間の削減や今までと比べ、8〜9割減のペーパーレス化を実現できています。動画による専門店従業員向けの研修や、モール事務所と専門店間のコミュニケーションツールとしても活用するなど、より一層スムーズにやりとりをすることができるようになりました。
岡村様
社会情勢に合わせて提供するという意味では、「イオンモールアプリ」もそのひとつですね。
最終的には各専門店からお客様に対していかに発信能力を高めるか、という点も集客においては欠かせない要素ではあるので、イオンモールアプリを通じて、セールやイベント情報を効率的に配信していただいたり、お客様の購買履歴や行動データを活用してクーポンを配信していただいたりと、キャンペーンの訴求力強化を図ることができるようになっています。
お客様に対しても、買い物をより便利でお得に楽しめるように、フロアマップや駐車場の情報、イベントやクーポン情報、ポイント管理などを一元化することで、顧客体験の価値向上にも繋げています。
あらゆるDXの取り組みを経て辿り着いた、LCIサービス
様々なDXの取り組みをされてきたその上で、Octa RoboticsのLCIサービスを導入してくださったという点が非常に興味深いですね。
谷上様
LCIサービスの導入は、DXを推進してきた私たちにとって、非常に最適な手段でした。
すでに配送ロボットの導入については、以前から導入を進めていましたが、移動こそできはすれ、エレベーターに乗れなかったり、自動ドアをうまく通過できなかったりなど、懸念点がありました。
また、実際にエレベーターと配送ロボットを連携すると言っても、施設ごとに異なるメーカーに対応して開発していくとなると、かなりの費用と時間がかかってしまいます。
それらを解決しながらなんとか配送ロボットを活用する方法はないか、と考えていたときにお話をいただいたのが、Octa RoboticsのLCIサービスです。私たちが導入したい配送ロボットと、あらゆるエレベーターのメーカーにも対応しているというLCIサービスが、まさに私たちの課題解決にフィットしました。
マルチベンダー方式によって、数多くのエレベーターや自動ドアメーカーに対して標準化されている点が素晴らしいと思います。
Q.標準化はまさにLCIサービスの提供価値が発揮される箇所ですね。
最終的な導入の決め手は何だったのでしょうか。
岡村様
今回の実証実験では、コストの低さも欠かせない要素だったと思います。
基本的に私たちはどのプロジェクトにおいても、「実際にまず試してみて、ダメだったらまた挑戦すればいい」という気持ちで取り組んでいます。新しい挑戦や不確定要素が多い中では、とにかく試さないと分からない。そういう意味では、手軽に試せて、横断的な展開も視野に入れやすい価格帯だったことは、非常に大きかったと思います。LCIサービスのマルチベンダー方式であれば、どんな施設の、どんなエレベーターメーカーにもフィットします。
新しいサービスを導入する際は、便利な機能ばかりに気を取られてしまいがちですが、現場やそれぞれの環境に合ったサービスでないと意味がありません。
機能ドリブンではなく、実現したい想いが先にあって、それをテクノロジーで解決する。私たちは、「“ヒトの想い”を中心としたDXの実現」が非常に大事だと考えています。
「ヒトとロボットの共存」を当たり前にする
Q.今回の実証実験では、数多くある施設の中でなぜ石川県のイオンモール白山を選んだのでしょうか。
岡村様
オープンからまだ日が浅く、施設規模も大きいため、新たな取り組みをする上で、イオンモール白山をフラッグシップ店舗として選びました。また、他の施設と比較したときに、比較的通路も広めです。そういう意味では、ロボットが通りやすくマップも作りやすいという理由も判断基準のひとつでした。
Q.実際にLCIサービスを導入してみて気づいた点があれば、ぜひ教えてください。
谷上様
最初は「ヒトとロボットが同じ空間に共存する」という点において、ある種のハレーションが発生するのでは、と心配していました。すれ違いざまやお客様がロボットより先にエレベーターに乗りぶつかってしまうなど、故障が頻繁に発生しないか危惧していました。
ところが実際稼働すると、お客様が意外なほどすんなりと、受け入れてくださったという印象があります。ロボットに対して道を譲ってくださるなど、丁寧に扱ってくださっていて。
導入して1年半ほど経過しますが、懸念していたような報告はまだ1回も受けていません。
Q.「ヒトとロボットの共存」については非常に未来を感じますね。
逆に、改善していきたい点はありますか?
谷上様
強いて言えば、もう少し利用回数が伸びるような運用設計をすればよかったな、という点はあります。あらゆるDX推進を試してきて課題自体が明確だった一方で、その分、配送ロボットの用途を限定的にしてしまったかな、と思っています。
これまでの紙でのやりとりがほとんどなくなったとはいえ、配送ロボットで運べるものと運べないものは明確に存在していました。例えば、レジロールはまだなくならないから運ぶ必要があるけれど、大きな荷物は配送ロボットでは運べないなど、配送する対象を絞る必要があり、それが結果的に、利用件数として想定ほどはいかないという状況になりました。
岡村様
ただ、決して悲観しているわけではなく、私たちがやるべきは「今の社会情勢に合わせた環境作り」であって、社会情勢や環境を見極めながら、専門店に商売をしていただくために必要なものを考え続け、常に改善していくことが大事だと考えています。
LCIは「商業施設というプラットフォーム」にインストールできるアプリケーション
Q.今後チャレンジしてみたいことと、それに対してOcta RoboticsのLCIサービスに期待することがあれば教えてください。
谷上様
今後も方向性は変わらず、お客様と専門店双方に快適な空間を提供しつつ、その上でどんどんステップアップしていけたらいいですね。
そういった意味でも、まずは配送ロボットを活用したユースケースを増やしていきたいと考えています。最初はお客様の呼び込みのために、次にチラシ配布、コーヒー配布など、これまで様々な検証を行って、専門店とモール事務所間の荷物の配送を実現しました。今後は配送できる荷物の大型化や、他の施設への水平展開などができたら、もっと活用方法が広がると思います。
その際にLCIサービスに期待することとしてはやはり、あらゆるエレベーターのメーカーにも対応できる標準化の部分ですね。今はエレベーターと自動ドアの対応だけで良かったところが、横展開や利用箇所の拡大をしていく中で、「やっぱり次はここも試したい」「あれも試したい」という新しいニーズがどんどん出てくると思います。
その都度新しくメーカーに合わせて開発費用をかけて改修するのではなく、手軽にマルチベンダー方式でロボットと施設が連携できるので、とても嬉しいです。
Q.もし仮に、LCIサービスを他のご担当者様や企業様に紹介するとしたら、なんと表現されますか?
谷上様
そうですね、スマホの「アプリ」みたいだなと思います。
LCIサービスは価格面でもあらゆる場所での利用のしやすさでも、誰でもすぐに、気軽に始められるアプリケーションみたいだな、と。その取り回しの良さが魅力的だと思いますね。
岡村様
アプリのような手軽さ、というのはDX推進する上で結構重要な要素な気がしますよね。
新しい取り組みは常に、実際にやってみて、現場のニーズや環境にアジャストさせていく必要があります。とにかく毎日トライアンドエラーの繰り返しです。
その中で、いかにコストと人的リソースを抑えながら推進していくかという点においても、Octa RoboticsのLCIサービスは非常に大きな役割を果たしています。
日本から海外へ提案する、商業施設の新しい形
商業施設が「体験」を提供する場所になる。まさにあらゆる人や店舗と共創するプラットフォームですね。
岡村様
これまでの商業施設にはない新しい当たり前を専門店と作りあげて、お客様に喜んでいただくという、それ自体が世界的にスタンダードになってくれたら嬉しいですね。
Octa Roboticsさんとは連携を検討しているので、ぜひ多方面でご一緒させていただきたいと考えています。